この世の中で分からないのが北朝鮮の金正恩とドナルド・ジョン・トランプ、そしてここで紹介する「ウラジーミル・プーチン」だ。前者2人は今、第3次世界大戦前夜のような危うい状態を作り出している。それに対してわが総理大臣は、モスクワへ飛んだ。
一説にはプーチン大統領から、「この4日間は何も起きないから大丈夫、安心しておいで」と言われたとか。そうでもない限り、隣国での騒動を尻目に、13時間もかかる遠隔地へ行くものか。逆の言い方をすればその位、ロシアプーチンの力は強い。
大国中国の、国家主席の習近平をこけにした金正恩。中国も巻き返しに必死だと聞く。しかし真のフィクサーは、ウラジーミル・プーチンか。ロシア史上、稀に見る長期政権を継続中のプーチン。プーチン政権は、2度に渡りすでに16年以上も続いている。
仮に米国大統領が約束の2期8年勤めたにしても、その2倍以上の長さである。「強いロシアの再建」を掲げ、国内には過酷な圧政を敷く一方、経済は2014年後半から低迷し、内政の矛盾は頂点に達している。著者の木村汎(きむらひろし)氏は、前著「プーチン-人間的考察」に続き、本書を上梓した。私は前著を読んでいない。
とあることがきっかけでアマゾン購入になりましたが、届いてみてビックリ、620ページに及ぶ超大作。一番に困ったことは、リックに入れて持ち運ぶ不便さ。重さは電池切れで測定できていませんが、体感1㎏弱。また本体価格は5,500円で、決して安くはありません。
ロシア研究の碩学が、沈みゆく大国「プーチンのロシア」の舞台裏を詳細かつ多角的に検証している大変良い本です。言論弾圧・経済疲弊・頭脳流出-混迷のロシアはどこへ向かうのか。勿論2018年の大統領選挙では、プーチンが再選されるだろうが。
この本の中で一番の印象は、プーチンという男は一貫して「強いロシアの再建」を提唱しているということ。ロシア連邦を、米国と並ぶグローバルな超大国へと復活させるという野望である。ソ連の崩壊を見ているだけに、その思いは強い。
ソチ五輪やクリミア併合という華々しい打ち上げ花火によって、プーチンの支持率は80%台にまで上昇し、シリアの空爆直後には89.9%にもその支持率は達した。敵を攻撃というシナリオは、内政の意識を異常に高める。戦前の「大本営発」が、その一つであろう。
一方、国際原油価格の大暴落に端を発する原油安、ルーブル安、さらにクリミア併合に対する欧米の経済制裁という、経済三重苦に直撃され、ロシア経済はなすすべがないように思われる。特に米欧(著者は「欧米」と「米欧」の2つを使っている)の経済制裁は、徐々に効き始めている。
派手な打ち上げ花火によって、ロシア国内の失政、なかんずく経済的困難から国民の目をそらす戦術。そうそうプーチンには戦略がないと著者は書いている。長期政権に戦略がないわけがないと私は思うが、それだけその場の判断対処が優れているのだろうか。
プーチンはロシア人(半血)の中でも、体が小さい。だから柔道などの格闘技に熱心だ。上半身の「マッチョ」を自慢して、よく見せている。私はそのような時に、プーチンは実は「小心者」の空威張りのカーリーさんをイメージする。
このようなプーチン式手品は、はたして何時まで有効なのか。これが今後の、プーチノクラシー(プーチン統治)の最大の見所であるが、果たしてどうなる。プーチンに敵がいるとすれば、それは「ナバァーリヌイ」だけのように思う。